第6回:チェリーとカシスのタルトは恋の味の巻
高校生の頃、同じクラスに花恵ちゃんという女の子がいた。
その名のとおり花のように可憐で女の子らしくて「名は体を表す」とはこのことだなぁと感心したのを覚えている。そんな彼女は家庭科部に所属していて、放課後になると作ったお菓子を男子に振る舞っていた。私も家庭科部が料理を作る水曜日には腹ペコの汗まみれの男子に混じってマドレーヌやクッキーなどよくご馳走になったもんだ。
そんな行動もあり、さらに賢く見目麗しかった彼女はもちろん男子にモテた。そして女子には八方美人のブリッコと嫌われていた。
事件が起きたのは2月、バレンタイン当日のこと。
花恵ちゃんが本命の人に渡すため気合いを入れて家で作ってきたチェリータルトの箱がグシャグシャにされて教室の片隅に放られていた。敵の多い彼女のこと、きっと妬んだ女子の誰かの仕業に違いなかった。
「こりゃあどうしたもんか」と慌てふためく私と友人をよそに、涙ひとつこぼさず、ひしゃげた箱をそっと拾う花恵ちゃんの寂しそうな横顔は今でも忘れられない。
「見た目は崩れたけど中身は平気みたいだからここにいる3人で食べちゃわない?」
そういって笑う彼女はすごく大人っぽくて綺麗に見えた。 その後学校近くの公園のベンチに座り、コンビニで貰った割り箸で3人でつついたチェリータルトは甘くて、ちょっぴりお酒の味がして、ほろ苦いけど美味しかった。
「これが花恵ちゃんの恋の味だろうか!」
なんて当時の私は思ったかもしれない。
タルトの専門店エスキィスの「チェリーとカシスのタルト」は、こっくりとした濃厚なビターチョコと香ばしいアーモンドのタルト生地の上に大粒のチェリーがのった贅沢な一品だ。サクサクでどっしりとしたタルト生地と甘酸っぱいチェリーの間には自家製の芳醇なカシスジャムが挟まれていてこの酸味がまたチェリーの甘みとチョコ生地の味わいを深くしてくれる。
そしてこのタルトからほのかにするラム酒の香りに、10数年経った今でもあの花恵ちゃんの横顔を思い出してしまうのだ。



締め切りに追われ多忙極まりない毎日。が、美味しいモノへの探求心はウルトラ級。






